フラレちゃった、夷谷クンに…。
しかし、デートをすっぽかされた後、彼からかかってきた電話に対していきなり「嫌い嫌い嫌い(以下略)」は無かったかな(^^;)。でも…あの時はホントに悲しかったの…。泣き出しそうになるのを我慢しながらしゃべっていたんだけど、こらえきれなくって電話切ったっけ。
そして電話を切った直後の大号泣。アタシは気がつかなかったんだけど、鳴き声が余りに大きかった為か家族のみんなが「一体何が起こったのか？」と一斉に廊下に出たらしいのよね。
実は電話を切った後のことは覚えてないの。気がつけばもう朝。自分の部屋に駆け込み、ベッドに洋服のままで寝ころんで、泣き疲れてそのまま眠っちゃったみたいね。あーあ、目が赤いし瞼が腫れちゃって美人が台無し。OH! MY GOD.さて、そんじゃシャワーでも浴びてさっぱりしましょうかな。
「フンフン…フフン…フンフン」
鼻歌が出るところを見ると、さんざん泣いせいか、幾分気が楽になったみたい。
「グッモーニン(^^)/…あれ？」
居間には誰もいないや…。おや、伝言板にメッセージが…。
『TO:彩子 おはよう、ねぼすけさん(笑)。母さん達は日曜特売に出かけてきます。朝御飯は、てきとーに食べて下さいネ。』 ふーん…。さぁて、ボイラーのスイッチを入れてバスルームへ…と。ひやぁ…朝一番のバスルームって冷えているなぁ…ちょっと熱めにして…っと。
「キュッ」と言う蛇口をひねる音と共に、シャワーの口から、少し熱めのお湯がアタシの体めがけて勢いよくでてくる。
んー、気持ちいい。やっぱシャワーはこうでなくちゃ。と、思ったのもつかの間…シャワーの温度は見る見るうちに下がってゆくの。
「あれあれ？なんでぇ？うわっ、冷たっ！」
蛇口を閉じて、あわててキッチンへ向かいボイラーのコントロールパネルをみて見るんだけど、スイッチは入っているのよね。ボイラーの故障？それとも灯油切れなのかなぁ…。いろいろ考えていると、居間のドアが開いて誰かが入ってくるの。
ウ…Wait、ちょっと待ってぇ、今この家にはアタシ一人だけなハズ。一体誰？まさか…泥棒？
「あ、彩子ねーちゃん、おはよう。いっ！？彩子ねーちゃんその格好…」
「修平？どうして修平がココにいるの？？？」
修平って、従弟なの。アタシはしばしの間、頭の中が混乱していました。そして我に返ったのは、修平の言葉「その格好」で自分の姿を見たとき。
「！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！」
アタシってば、バスタオル一枚という何ともあられもない姿じゃないの！？
「キャ――――！いやぁぁぁ、見るな、あっち行け、早く出てけ――！」
「う、うわっ出て行くから、モノ投げないで。いててっ」
修平を居間から追い払った後、アタシはあわててバスルームに駆け込みバスタブに潜ったわ。バスタブには２４時間保温巡回装置がついているので、バスタブにはいつでもお湯が張ってある…。ザバァーとバスタブから勢いよくあふれるお湯。いやぁ、あんな姿を見られたなんて、もう恥ずかしいったらありゃしない(泣)。
アタシがお風呂から上がって居間に戻ると、ばつの悪そうな顔をした修平が…。モジモジしちゃって可愛いんだわぁ…。まぁ、まだ中学１年生だしね。
「あ、あの…彩子ねーちゃん。お、オレ…」
「まぁ、いいわ。裸見られたわけじゃないんだし。でも修平、アナタ一体いつ家に入ったの？玄関には鍵がかかっていたわけだし、それが疑問なんだけど…」
「え？オレ、昨日からいたよ」
思わずアタシは自分の耳を疑いました。昨日から？まさか…、まさか…。
「昨日のいつ？」
「夜の８時くらいかな、着いたのは。びっくりしたよ、だってオレが玄関を開ける なり、彩子ねーちゃん、すごい勢いで部屋に駆け込むんだもの。ひょっとして、玄関にオレがいたのに気がつかなかった？」
「全然…」
やばい、非常にヤバイ。あの醜態を修平に見られたかもしれない。今はその事に触れられたくない。ココは話題を逸らさねば…。
「ところで修平、今日は何の用？」
「あ――！彩子ねーちゃん忘れてる。オレが親戚の叔父さんの経営している喫茶店 でバイトしているのは知っているよね。そこに絵画を提供している画家が、今日展覧会を開くから見に行く？って誘ったら『行きたい』って言ったじゃないか。」
うっひゃぁ、昨日のドタバタ騒ぎですっかり忘れてた。
「あっ！そうだった。Sorry、ゴメ〜ン。まだ時間大丈夫？」
「全く…時間はまだ大丈夫だけどね…。それよりおばさん達は？」
「なんか買い物へ行ったみたい。あ…今、朝御飯作るから待ってて」
「ゲッ！彩子ねーちゃんが作るの？なんか心配だなぁ。食中毒大丈夫？」
ぐっ！きっと母さんから聞いたのね。合宿での食中毒事件以来、ありとあらゆるところで言われてるものなぁ。でも事実だから反論できないけれど、うろたえてはいけないわ。
「失礼ね、待ってなさい。いま彩子のスペシャル料理披露して上げるから」
「ふ〜ん…ぢゃぁ、期待して待っているね(゜ー゜)」
くっそう。あれは絶対期待していない顔だ。ホント小憎らしいヤツめ。でも、大風呂敷広げたものの、あんまりレパートリーがなんだよね。トホホ…
おまけに冷蔵庫の中の材料まで品薄ときたものだ…。結局ゆで上げスパゲッティを多目に作って二人で食べることにした。
「お待たせー。彩子特製和風たらこスパゲッティよ」
「ほほう、ゆで上げスパゲッティね…。どれどれお味の方はどうかな？それでは、いっただきまーす。」
「（モグモグ）お。結構食べられるじゃん。おいしいよ」
「『結構』って、失礼だわね。でも、Thanks!ありがと」
皿の中のスパゲッティももう残り３分の１である。アタシはもうお腹がいっぱいになったので、後は修平に任せることにした。
「ごちそうさま。アタシは着替えてくるから、食べたら食器は流しに置くだけで良いから、お願い」
「うん解った」
アタシは自分の部屋に戻り、部屋着のスエットから外出着に着替えた。今日のコーディネートは淡色系のロングスカートのワンピースとシンプルに決めてみた。
ふと壁に掛けてある時計に目をやると、時計の針は正午を指そうとしていた。修平も、もう食べ終わって支度が整っているだろうと思い居間に向かうと何故か空の食器を前にして、不満そうな顔をしている修平の姿があった。
「修平？どうしたの、まだ食べ終わらないの？」
「彩子ねーちゃん。これゆで上げスパゲッティだよね？」
「あったりまえじゃないの。それ以外に何があるのよ。」
「でも、これはどう見てもスープスパゲッティだな。」
「はぁ？変なこと言わないでよ」
修平の言葉があまりにも気になるので、空の食器を覗いてみた。すると…ゲッ！水切りがあまかったせいか、結構な量の水分が…。あちゃー
「７０点」
「What？そんな殺生な…もうちょっといい点をお願い、Please(-人-)」
「だーめ。ゆで上げスパゲッティで、水切り不足は大減点だよ。」
「うにゅにゅにゅ…いぢわる。…あぁ、すっかり待たせちゃったね。それじゃぁ展覧会に行こうか？」
「はいよ」
『TO:まみぃ 修平と一緒に展覧会へ行って来ます。』
伝言板にメッセージを張り付け、アタシと修平は展覧会に出かけた。
はて？ところで一体誰の展覧会だっけ？修平に聞こうと思ったのだが、またバカにされるのが落ちなので、あえて黙っていることにした。
今日行われる展覧会というのは、デパートの一角を貸り切ってやっているらしい。一体どんなアーティストなんだろう？チョット気になるわネ。そうこうしている内にそのデーパートに到着した。さて、目指す展覧会は…と。ああきっとこの８Ｆの特設催し会場ね。
『眼牙戯牙画伯 展覧会』
８回の特設催し会場には、そう書かれたごくシンプルな看板が掛けてあった。
眼牙戯牙…眼牙戯牙…はて、どこかで聞いたような聞かないような…。
ま、考えても仕方がないので、取り合えすは会場にはいることにした。
「あ、彩子ねーちゃん、チョット待って。はい招待券。」
「？…あ…Thank you。ふ〜ん…結構有名なのね。」
「オレ、トイレ行くから先に入っていて」
「ＯＫ！」
「いらっしゃいませ、ごゆっくりどうぞ」
眼鏡をかけた受付の女の子に招待券を渡して、会場へと入った。
絵を見たら思い出した。『眼牙戯牙』って最近美術関係の雑誌で話題になっていた画家だ。へぇ〜…一度見てみたかったのよね。Lucky!
「あ、修平君。こんにちは。きてくれてありがとう」
さっきの受付の女の子の声だ。一体なんだろうと思い入り口の方へ振り向くと修平と受付の女の子が仲良く話している。
「修平？」
「あ…彩子ねーちゃん？先に入ったんじゃないの？」
「いや、入り口の所にいただけなんだけど…。修平、アナタこのお嬢さんと知り合いなの？」
「あ…いや…その」
なんか変だな、このあわてよう。そう思っていると受付の女の子が一言。
「私、修平君と一緒に喫茶店でアルバイトをしている眼牙熱子といいます。このたびは父の展覧会にきていただきありがとうございます。」
「あ、あらそうだったの。私、片桐彩子。修平の従姉です。よろしく」
そうか…ふ〜ん。修平のヤツ…
「ぢゃぁ、修平、アタシは先に回っているから、ご・ゆ・っ・く・り(ハアト)」
さて、色ボケ修平は放って置いて展覧会でも楽しみますか(^^;)。いろいろな絵を見ても…………こりゃ理解するのはムズかしいわ。賛否両論が別れるのは当然かもね。
いろいろ見ている内に一つだけ心が引かれた絵があったの。それは「恋愛」とタイトルが付いた何の変哲もない単調な水彩画。なぜかみょーに気になって。ま、他にも絵があるから、またきて見よう。
「だから！何でコレが『恋愛』なのさ！？単なる線じゃない？」
さっき通った「恋愛」の絵のあるところだ。何だろう？行ってみよう。絵のあるところへ行くと怪しげな格好をした少女と男性が言い合っていた。
「見てわからんのか？３６０度どこから見ても『恋愛』だろが」
「ったく…これだから芸術心のないヤツは困るな」
「こんな線ばかりの絵を見て、『恋愛』だって言う方が解らないわよ」
「フン！おまえみたいな分からず屋は、もう飼えん！」
「だから、ペットじゃねーっつってんだろーが！キィック!o(・_・θ( xx)」
な…なんのこの二人は一体？
「お父さん、ヨーガ、二人ともやめて」
受付の女の子が叫びながら会場に入ってきた。お父さん？って事は、この人が眼牙戯牙なわけ？ふぇ〜…
「よかろう、今日は特別だ。教えてやろう！こう筆を入れると『失恋』になる！！」
ビシッ！バシュッ！
え？なんでいきなりそう言うことが出来るの？
「だーかーらぁー、何でそれが『失恋』なんじゃい！！！！」
「つくづく情けないヤツだな、解りやすく筆を入れてやったというのに。おまえのために」
「全然わからんわー！それに頼んでもいねーぞ」
でも…でも…何となく解る…どうとは言えないが何となく解る。あれは確かに『失恋』だ。どこかで見たことがあるというか、感じたことがあるというか……そんな雰囲気だ…。
その後の眼牙戯牙氏といえば、雑誌の取材の対応にずっと追われていた。
「あ、よろしければそこで一休みしませんか？」
「そうね、そうするわ…」
一気に気が抜けたので、熱子ちゃんの提案に素直に従った。
「コーヒーしかありませんが、どうぞ」
「Thanks!ありがと」
「しかし、修平も隅に置けないわよね〜。こんな可愛い娘と、ちゃっかりお友達
なんかになったりして」
「ゲホッ！な…なんだよ一体。むせたじゃないか」
「フフフ、照れない照れない。でも…来て良かった」
「あ…ありがとうございます。片桐さん」
「やぁ、熱子ここにいたのかい？おお、修平君もようこそ。熱子、そちらの女性は
一体どなただ？」
振り向くと眼牙戯牙氏がアタシ達のテーブルの所へやってきた。うわ〜。こんな有名人と間近で接することが出来るなんて、ちょっとドキドキ。
「あ…こちら修平君の従姉で片桐彩子さんって言います。」
「初めまして片桐彩子と申しましす。きらめき高校の美術部員です。今日はお招き
いただきありがとうございました。」
「で、どうかな？私の絵の感想は？」
え…？まさか眼牙戯牙氏と絵のことについて話せるなんて思わなかったわ。 もうハートはレッドゾーン寸前(笑)。
「あ…そうですね…。『失恋』が印象に残っています。」
「ほほう、あの即興で作った作品か…。さてはアナタ恋する乙女かな？」
「え…あの…その(*^^*)」
「ハハハ…失礼。それについては聞くまい。帰りに受付によりなさい。いいモノを
上げよう。それでは」
はぁ…良いものね、何だろ一体？。さ、もう一回りしたら良い時間か…。
「アタシはもう一回りしてくるから、修平、後で受付で落ち合いましょう」
「ん。彩子ねーちゃん、解った」
アタシはさっきから気になっている『失恋』の前にいた。
しかし…他の絵は分からなかったんだけど、『恋愛』と『失恋』だけは素直に
感じられたんだろう？不思議だ…。やっぱ恋する乙女だから…なんちゃって(笑)。
『皆様、本日は…』
あ、もう終わりの時間か…受付に行かなきゃね。
受付に行くと修平、熱子ちゃん、そしてあの怪しげな格好をした少女もいた。
しかし…何をくれるんだろう
「やぁ、片桐さんお待たせ。コレを…」
そう差し出されたのは、あの『失恋』だった。え――――――――――！ あの気になった絵をもらえるなんて嬉しい(笑)。しかも眼牙戯牙氏本人から。
「だが、君に上げるのは『失恋』じゃない」
「え？」
「こう筆を入れる」
え？ええ？いったい何？
「なんなのぉ一体、また変なコトして」
ヨーガが絵をのぞき込んだ。ところが眼牙戯牙氏は間髪を入れず、ヨーガの顔を 絵に押しつけた！うっそぉ？絵の具塗りたてなのに？
「ぷはぁ、いったいなにすんじゃぃー！」
予想通りヨーガの顔は絵の具だらけ。そして絵にはヨーガの顔拓が(^^;)。
「これは『Fight!』だ。早く失恋から立ち直れるよう私からのプレゼントだ。
それじゃ、あでゅー(^^)/」
「だから、何でそれが『Fight!』なんじゃー。そして、ダンディーきどんじゃねー
まて、コラー！キィック!o(・_・θ( xx)」
呆気にとられた私たちは、今一度絵を見てみた。そこに描かれているのはヨーガ
のヘンな顔。顔を上げてお互い見つめるとなぜか笑ってしまった。ところが、そこ
で気づいたの。この色彩はまさに自分の心の中の情景だと言うことに…。
『恋愛』の時は、ラブラブパステル調。『失恋』の時には、心が引き裂かれる様
なタッチ。そして暗い雰囲気を吹き飛ばす『Fight!』。
「熱子ちゃん、ありがとう…。そう伝えて下さい。それじゃまたネ」
そして私たちは展覧会を後にした。
あの時もらった『Fight!』は、今でも部屋に飾ってあるんだけどぉ…ヨーガの 顔拓が怪しさ一杯(^^;)。