明日香ちゃんの意識回復を煙草屋のおじさんに伝えに行く途中、自転車の後輪がパンクしてしまい車道に投げ出されました。ですが、気が付いたときには車は急ブレーキをかけているところでした。

　恐怖の余り、動くことが出来ません。出来ることと言えば、目を瞑るくらい。
　車に跳ねられた感触がないので、おそるおそる目を開けてみると、なぜか車の中にいたのです。

「ふにゅ？」
「あー危なかった。で、お嬢さん。いつまで人の膝の上に乗っているのかな？」

　なぜか、えみりゅんは後部座席に座っている人の膝の上にいます。とりあえず車の外に出ることにしました。どうやら、えみりゅんにぶつかる前に、車を横に向け、ドアを開け、えみりゅんを強引に車の中に引っ張り込んだようです。

　信じられませんが。

「あ、ご、ごめんなさい。」
「じゃ、気を付けてね。」

　車から降り中の人に謝ると、その車は去って行きました。自転車はパンクしているので乗ることが来ません。したがって、自転車を押して煙草屋に行くしかありません。

　ついていないときは、とことんついていないようで、煙草屋にたどり着くとお休みでした。

「えぇ〜。せっかく来たのにぃ。えみりゅん疲れちゃったよぉ。」

　誰もいない煙草屋の前で一休みした後、自転車のパンクを修理に向かおうとしたとき…

PiPiPiPi… 「ん？電話だ…はい、永倉ですが…」
『えみりゅん？"あーちゃん"だけど、今何してる？』
「いま、自転車屋さんでパンク修理。」
『ありゃ、それ終わった後何かある？』
「いや、特にないけど…」
『いま、マイナさんとl'omelette（ロムレット）にいるんだけど、よかったら来ない？』

　このまま家に帰っても、何もないし、一人でいると気分が沈みそうだったので、あーちゃん達と会うことにしました。

　カランコロン…

「いらっしゃいませ。一名様ですか？」
「えっと、友達が先に来ているんだけど…」

　そう言いながらあーちゃんたちを探していると、店の奥の方にいるのを見つけました。

「あ、あそこです。」
「はい。畏まりました。どうぞ。」

　席に案内して貰い、メニューを開きます。注文は何にしようかな…。

「あ、注文は私たちと同じケーキセットでお願いします。」
「畏まりました。ケーキセット１つですね。」

　どうやら、ハニーレモンパイのケーキセットがお薦めメニューらしいですね。
　あーちゃん…勝手に注文しちゃったのねん…(^^;。

「えみりゅんさん、その後、星野さんの様態は…」
「えっとね、今朝電話があって意識が戻ったんだって。あれ？そのことは二人にメールしたよ。今朝。」
「あ、今日はまだ巡回していないや。」

　そしてl'omelette（ロムレット）から出たときです。トンガリ帽子と黒マントは羽織っていませんでしたが、カードを無くしたときにあの広場であった女の子がいたのです。

「あ、こ、こんにちは。先日はありがとう御座いました。」
「『礼には及びません。貴重な体験が出来たので、こちらこそ逆にお礼を言わなければならない』ですか？そう言われると、照れちゃうなぁ…。あ、私、永倉えみる。えみりゅんって呼んでね。あなたは？」
「来栖川…芹香…です。」
「来栖川って、あの来栖川グループのことで御座いますか？」

　芹香さんは、マイナさんのの問いに黙って頷きました。

「え？『あなたとあなたのお連れさんに危険が迫っている』って、一体どういうことりゅん？」

　芹香さんからの思いも寄らない言葉に、えみりゅんは驚きを隠せませんでした。芹香の話によると「邪悪な力」と「強力な魔力」が二人の周りに感じられるとのことです。

「それはどう言うことですの？『今はわかるのはそれだけ』って…」
「ま、何にせよ、気を付けた方が良いと言うことなのかな？」

　芹香さんは、あーちゃんの言葉に黙って頷きます。時間もちょうど晩御飯時になっていましたので、ここで解散することにしまた。
　家に帰ってからも、ずっと芹香さんの言葉を思い浮かべたのですが…

「危険が迫っているかぁ…。一体なんだろう？あの夢は…関係ないよね。」

　確かに占いでも「不吉な影が迫る」と出ていたし。えみりゅん達何か恨みを買うような事したかなぁ…。全然思いつきません。悩んでも仕方がないので、これ以上考えるのは止めます。

　それから２，３日したある日の夕方、えみりゅんが家に帰ると電話が鳴っていました。

ｔｒｒｒｒｒ、ｔｒｒｒｒｒ、ｔｒｒｒｒｒ

「ハイハ〜イ、ちょぴっと待ってねぇ…。ハイ、永倉です。えっ？」

　電話の相手は、明日香ちゃんのお母さんです。近い内…来週の日曜日あたりに集中治療室から出られるので、是非ともお見舞いに来て欲しいとのことでした。
　早速"マイナさん"と"あーちゃん"にメールを出し、来週の日曜日、ショッピングモールで待ち合わせて三人で明日香ちゃんのお見舞いに行くことにします。

　そして、いよいよお見舞いの日。私たち三人は司葉クリニックの前に到着しました。もう、かれこれ一週間以上「家族以外は面会謝絶」で会っていなかったので、えみりゅんのちっちゃな胸はせつなさで炸裂しちゃいそうでした。

「えっと、星野明日香、星野明日香…と。あぁ、ここですわね。失礼しまぁす。」

　病室に入り、明日香ちゃんの元気そうな顔を見たらダメでした。今までこらえていた思いがこらえきれなくなりました。もう、涙で何も見えません。

「明日香ちゃぁぁぁぁん。えみりゅん、心配したよぉ…。会えなくて寂しかったよぉ…。ぐすっ…ぐすっ…。うぇっ…うぇぇぇん。」

　とうとう明日香ちゃんに抱きつき、胸の中で泣きだしてしまいました。

「こらこら、泣かないの。アタシ死んだ訳じゃないんだから。」
「えみりゅん、嬉しくて泣いているんだよぉ…」
「それはわかったから、ちょぉっと顔を上げて欲しいんだな。」

　なんでしょう？とりあえず言われるまま顔を上げました。

「ふにゅ？」
「いやね、これでも肋骨折っているモンで、アタシの胸の中で泣かれると鳴き声が折れた肋骨に響いちゃうんだわ。これが。」
「あぁっ、ゴメンね、ゴメンね、痛かったでしょ？」

　でも、明日香ちゃんは笑ってくれました。しばらくの間、私たち四人でお話をしていたのですが、廊下をおっきな手押し運搬車が行き来してます。

「なんでしょう？あれ？」
「多分、晩御飯じゃないかなぁ…時間的にあうし。」

　ふと見ると時計の時間は４時半を指していました。名残は惜しいですが、私達は帰ることにしました。

「それじゃ、明日香ちゃん。また来るからね。」
「うん。みんな、今日はありがと。」
『それじゃ、お大事に。バイバ〜イ』

　それから２，３日は、えみりゅんも忙しくて明日香ちゃんのお見舞いに行けなかったのですが、ようやく自由な時間が出来たので、明日香ちゃんのお見舞いに行ったのですが…

（明っ日香ちゃんは、元気かなぁ〜）

「失礼しま〜す。あれ？うそ…どうして？この間はあんなに元気だったのに…」

　病室に入って、えみりゅんの視界に入ったのは酸素吸入をしている明日香ちゃんの姿です。なんでも、風邪を引いてしまい、それがこじれて肺炎になったそうです。
　高熱でうなされる明日香ちゃん、苦しそうでした。出来ることならえみりゅんが代わって上げたいくらいです。でも、えみりゅんに出来ることと言えば祈ることしかできません。とりあえずは面会時間まで明日香ちゃんの側にいました。

　ところが病院からの帰り道のこと…

「痛っ…。なんだろ？」

　突然えみりゅんの右腕に「何か刺さったような」痛みが走りました。最初は気のせいだろうと思っていたのですが、それから数日経っても、痛みが引く気配がありません。
　近い内に病院に行こうと思いますが、今は明日香ちゃんの様態の方が心配です。せっかく意識が戻ったばかりなのに…。早く良くなって欲しいです。

【第17話終わり】