えみりゅんの右腕に「何か刺さったような痛み」が走ってから数日。一向に痛みが引く気配がありません。とりあえず病院に行きましたが、湿布を貼って終わり。明日香ちゃんの肺炎も治る気配を見せません。
はぁ…、憂鬱だなぁ…。
もらった湿布が無くなっても痛みは相変わらずだったので、もう一度病院へ行き今度はレントゲンを撮ってもらうことになりました。
「永倉さ〜ん、どうぞ。」
「はぁい。」
レントゲンを取り終わり、待合室で待っていると呼ばれました。再び診察室にはいると、お医者さんはレントゲンの写真を見ていました。わぁ…。あれが、えみりゅんの腕の骨なんだ。
ところがお医者さんはレントゲンの写真をずっと見つめたままです。
「なんだぁ…?なんでこんな物が腕の中に…」
え?え?何々?一体えみりゅんの腕がどうかしたの?
「あ、あの先生?」
「あぁ、ゴメン。一つ聞くけど、普通に生活していたよね?例えばイジメとか受けていないよね?」
はぁ?えみりゅんには全然心当たりがありません。
「あの、一体どうなっているんですか?」
「実は…」
お医者さんの言葉はえみりゅんには信じられませんでした。なぜなら、えみりゅんの腕の中に「裁縫針」があるのです。もちろん、イジメとかで刺されることはありませんし、ここしばらくの間裁縫針なんて使っていません。
「信じられないようだが、ここ。この細い部分がそうなんだ。普通こんなに奥深くにこんな物は刺さらないんだが…」
お医者さんの説明どおり、皮膚と骨の中間辺りに白く細い物があります。しかも糸を通す穴までちゃんとわかりました。とりあえずは、今度の土曜日に手術をして針を取り出すことにし、痛み等がひどくなったらまた外来に来ると言うことで帰宅しました。
晩御飯を食べ終わり、自分の部屋でボーっと色々考えていました。明日香ちゃんの様態はどうなったのか?なぜえみりゅんの腕に裁縫針があるのか?最近良く見る不吉な夢は何なのか?
「あぁ〜、考えてもわかんないよぉ〜!。あ、そうだ。今日は「テレビMMM」でオカルトの番組やっていたんだ。よいっしょっと。」
今日の特集は海外のオカルトにまつわる話でした。人気のない洋館に幽霊が出るとか、カメラはついにエクトプラズムを捉えた…とか、恐いけど見てみたいです。
「あぁ〜、なになに?この気味の悪い声。きゃぁ、ひ・人影がぁ〜」
余りの怖さについ手で顔を覆ってしまうのですが、恐いとわかっていつつも、指の間からテレビを見ちゃうんですよね。どきどき。
今度は、呪いにかかっているというある女性が登場しました。呪いなんて、現実にはあるわけないじゃん。そんなの気のせいだよ。…と思いつつ、その女性の話に聞き入っていたのですが…
これは、単なる偶然でしょうか?その女性の腕にも「裁縫針」があったというのです。しかも、えみりゅんと同じく普通ではあり得ないような深い場所に。でも、その女性のレントゲン写真を見て驚きました。えみりゅんは腕の一本だけでしたがその女性は腕と脚の至る所に針があったのです。
「ま・まさかねぇ…えみりゅんに呪いなんてかかっていない…よね…。呪いなんて非論理的、非科学的な物…」
えみりゅんの中にある不安を、「非論理的」「非科学的」と言う言葉で無理矢理消し去りました。
ところがです…。朝起きると、今度は左腕に右腕と同じ痛みを感じました。念のため、病院へ行きレントゲンを撮ってもらったのですが…
「信じられん…」
の言葉共にお医者さんは頭を抱えてしまいました。そうです。先日のレントゲンと同じく、針が写っていたのです。昨日のテレビの内容と照らし合わせると、そう思いたくはないのですが、えみりゅんに呪いがかかっているとしか思えません。
でも、なんで?
なぜえみりゅんに?
呪いをかける目的はなに?
答えが見つかりません。でも、このままでは針が増える一方です。何かしなければ…。でも、どうやって?こんな夢みたいな話、信じてもらえるのでしょうか?とりあえずは"マイナ"さんにこのことをメールしました。
でも、更にえみりゅんに追い打ちをかけるようなメールが来たのです。
「力のない者は、強大な力を御することは出来ない貴様にその資格はない
その強大な力を操るのは選ばれし者のみである
○月○日、それを思い知らせてやろう」
な…なに?このメール。えみりゅん、そんな物持っていないよ。何かの間違いだよ。そんな覚えのないことで呪いをかけられるなんて、迷惑のこの上ないよ。なんだか気味が悪くなったので布団に潜り込んだのですが、そのまま寝てしまったようです。気が付けば朝でした。
その日の放課後は萬屋の日でしたが、とてもそんな気になれません。ですが、このまままっすぐ家に帰ると煙草屋のおじさんが心配するので、煙草屋には向かわなければ行けません。煙草屋に着くとマイナさんが立っていました。
「あ…こ、こんにちはマイナさん。」
「あぁ、お待ちしておりましたわ。メールのことでお話があるのですけれど、お時間よろしいでしょうか?」
「良いですけど、ちょぴっと待って欲しいりゅん。一応おじさんに挨拶して置くから。」
裏口に回り声をかけたのですが誰もいない感じでした。ちょぴっとだけ待ってみたのですが、これ以上マイナさんを待たせるわけにはいかないので、戻ろうとしたときです。
「あ、えみるちゃん。どうしたの?」
「あのね…今日は占いお休みするの…」
「さっき舞奈ちゃんから聞いたけど、呪いだなんて不吉だよね。」
「えっ…う、うん。なんでえみりゅんなのかが、わかんないよぉ…。えみりゅんなんも悪い事していないのに…」
えみりゅんが涙声で訴えると、おじさんは黙ってお守りをえみりゅんの首にかけてくれました。
「オレにはこれくらいしかできないけど…」
「ありがとうりゅん。」
「あ。それから、頼まれていたエアガンの修理&チューンが終わったよ。そしてこれもお守り代わりに…」
小さい箱でしたが重量感がありました。開けて中を見てみました。
「BB弾?」
「そっ。但し純銀のね。何か役に立つかと思って。」
「ありがとうりゅん。それじゃマイナさんを待たせているので、これで…」
「うん、バイバイ。気を付けてね。」
マイナさんの話は、えみりゅんのかかっている呪いについてでした。呪者の血をつかい、粘土の人形に針を刺すことで相手を攻撃する呪いだそうで、同じ呪いでもかなり危険なものらしく、かける方も結構命の危険にさらされるそうです。
「えみりゅんさん、もし何かあれば、遠慮無くわたくしとあーちゃんさんに言って下さいね。わたくし達も出来る限りの事はさせていただきますから。」
「マイナさん…。ありがとうりゅん。うん…なんかあったらメールするよ。あ、あーちゃんにも知らせて置かなきゃ…」
「わたくしから連絡しておきましたわ。有事の際はいつでも連絡下さいとのことでした。」
「うん、ありがと。もうこんな時間だね…。帰ろっか?」
私達は喫茶店を後にして帰宅の途につきました。
(あ…また来てる…)
メールチェックをすると、例の内容のメールが来ていました。なんで…。一体えみりゅんの何が目的なの?リターンアドレスが消されているから、抗議しようにもできないよぉ…。
それからと言うもの、毎日のように来ている嫌がらせメールなので、プロバイダに問い合わせて発信元を探ってもらおうと思ったけど、それも不可。
こう言うときの頼みの綱、浅井さんにメールをした数日後、浅井さんから返事が帰ってきました。
「やっほ。浅井@ハック屋です。
問い合わせのメール送信元だけど、ヘッダと該当サーバハックの結果、比較的簡単に掴めたわ。場所は………、つまりあなたの身近ね。
浅井さんからの情報により、メールの差出人と思われる人の家へ向かいました。
そこにあったのは…
「えっ?確かここはなにもない広場だったはず…。なに?この洋館。」
そうです。この場所には洋館なんて無かったはずなのに、そこには洋館が建てられていたのです。
【第18話終わり】