「拝啓 えみるさん。
こんにちは、保坂美由紀です。来週の土曜日に東京の品川プリンスホテルで着物の発表会がありまして、モデルとして出ることになりました。
折角の機会ですから、もしよろしければお会い出来ませんか?
金曜日の最終便出発しまして、宿泊するホテルは発表会の会場である品川プリンスホテルです。土曜日の18:00から発表会なので、その時間を考慮していただければ待ち合わせ時間等はお任せします。
追伸 これってやっぱりオフ会のお誘い…になるんですよね。
私、オフ会って初めてなんです。よろしくお願いします。
かしこ
えみるは自分宛に届いたメールを読んで腕組みをして考えている。………が、次第に笑い顔になっていた。
「えへへぇ〜、そうか、美由紀ちゃんが東京に来るんだぁ。もちろん、会うっきゃないりゅん。あ、そうだ、マイナさんと、あーちゃんと、通信はしていないけど明日香ちゃんも誘って良いか聞いてみよう。」
そう言いながら美由紀への返信メールを書き始めた。その美由紀の返事と言えば『沢山の方とお会いで知るのは嬉しい』と良好な返事だった。
待ち合わせ場所は、土曜日13:00品川駅JR切符売り場前である。
『次は品川〜、品川〜』
さて、いよいよオフ会当日。品川駅のホームに到着したえみる、明日香、マイナ、あーちゃんの四人は改札口へと向かう。途中、明日香がえみるに質問する。
「ねぇ、えみりゅん。待ち合わせの目印って何?」
「目印は無いけど、お互い顔を知っているから大丈夫だりゅん。」
「ってことは、前にも会ったことあるの?」
「いや、今日が初めてだよ。」
「ほえ?」
明日香は不思議顔である。
「答は簡単、お互い顔写真の画像を電子メールで送ったからなのだぁ。」
「ふ〜ん…」
4人が改札を出ると、辺りを見回した。えみるが右を見ると、眼鏡をかけたヘアバンドをしている女の子と目が合い「あっ…」と声を上げたと同時に、眼鏡をかけた女の子がえみるたちの方に歩き出してくる。
「あの…。永倉えみるさん…ですよね?初めまして保坂美由紀と申します。名前を呼ぶときにはファーストネームで結構ですから。えっと…お隣にいらっしゃるのは、確か…星野明日香さんですよね。初めまして。」
「はじめまして、美由紀ちゃん。えみりゅんって呼んで良いよ。」
「えぇぇっ!?アタシは貴方の顔も名前も知らないのに、なんであなたが私の顔と名前を知っているの?」
美由紀は「クスッ」と笑いながら、肩から提げているハンドバックの中からサブノートパソコンを取りだし、
「ハイ、お二人で写っている写真を送っていただいたのです。見せても良いですよね?」
とえみるに問いかけ、了承を得てからメールを明日香に見せた。
「どれどれ?う〜ん、電子メールというのは案外明日香ちゃんチェックに役立つかも…」
「そして、三つ編みの人が"あーちゃん"、ロングヘアの人が"マイナさん"だりゅん。」
『初めまして。』
三人の挨拶がハモる。
「さて、これからどういたしましょう?」
マイナの呼びかけに真っ先に反応したのは明日香だ。
「秋葉原だけは止めてよね。」
この一言で、明日香と美由紀を除く3人は笑い出してしまった。何せ、最初のオフ会でも無関係なのに電話で呼び出された上、同人誌屋でさんざんな目にあったのだから明日香の反応も無理はない。
そして、えみる達はオフ会で明日香と分かれた後のことは、後に合流したときに聞いたのである。
「な、何でそんなに笑うのよぉ」
「あの、秋葉原で何かあったんですか?」
美由紀の問いに応えようとする三人だが、笑いを抑えるので精一杯である。
ようやく あーちゃん が笑いを抑えて話すことができた。
「い、いやね…フフフ。あ、そうだちょっと金額は高くなるけど、そこのアンミラで食事しない?ねぇ、みんなどうかな?」
結局時間もそう無いので、手近なところで話すことになり、品川駅の向かいにあるファミレス(?)のアンナミラーズへと向かう。
五人のオーダーと言えば、マイナ&あーちゃんがケーキセット、萬屋コンビがパスタ、美由紀がパンケーキセットとなった。オーダーを取り終えた後、秋葉原のネタが出てはまずいので、明日香はチャンスとばかりにネタを振り始めた。
「あーあ、アタシもここでバイトしたいんだけどなぁ…」
「ここの制服って、可愛いですよね。着るにはちょっと恥ずかしいけど…」
「そーそー、美由紀ちゃん解っているねぇ…。恥ずかしいのは着ている内に慣れるよ、ウンウン。」
よし!これで話題がそらせる…と意気込んだ明日香であるが、横からチャチャが入る。
「でもさぁ、明日香ちゃんじゃねぇ…美由紀ちゃんならともかく。」
「何が言いたいわけ?えみりゅん…。」
「さ・ぁ・ね…」
「ハイ?えみる…じゃなかった、えみりゅん、何で私が?」
明日香はえみるの言いたいことは見抜いている。それは「胸が無いので似合わないから止めろ」である。だが、そのままストレートに反撃しても無駄なのも又承知している。ここは牽制に出るほうが吉と判断した。
と、その時オーダーした品物が届き、それぞれに行き渡る。
えみると明日香のやりとりを見ていたマイナだが、美由紀と明日香を見比べた後爆弾発言をしたのである。
「あぁ、やっとえみりゅんさんの仰っている意味が分かりましたわ。あの制服が似合うためにはバストが大きくないとダメですものね。」
ガン!明日香はハンマーで殴られたような衝撃を受けてその場に沈み込んでしまった。と同時に
ブフッ…
「きゃぁ」
「げほっ、げほっ…ゴメン。美由紀ちゃん、跳ねなかった?げほっ…、マイナさん、それって余りにもダイレクトすぎるんだけど…」
「はぁ…それがどうか致しましたか?」
マイナの発言が余りにもダイレクトすぎたので、あーちゃんは飲んでいるジュースをむせてしまった。
マイナは素直に制服に関しての感想を述べただけである。悪気はない。悪気はないのであるが…。
「い、いえ大丈夫ですが…。………?星野さん?な…なんでしょうか?」
「じぃ〜…」
「な、なんでしょう?」
「じぃ〜…」
明日香は美由紀の問いかけにも応えず、美由紀に視線を向けて続けている。
「何センチ?」
「ハイ?」
「だから、バストは何センチかって…」
「85cmですけど…」
「あぁ〜、まだ聞きたいことがあるけど止めておく。ありがとう。これ以上聞くと自己嫌悪に陥りそうで…。」
明日香をからかっていたえみるであるが、明日香の落ち込み様を見ていると、さすがに可哀相になったので話の矛先を変えることにした。
「ところで美由紀ちゃん、着物の発表会のモデルって聞いたけど、どう言うこと?」
「あ、実は家が呉服問屋なんです。それで新物の着物の発表会があるときはモデルの経費削減のために私が着物を着てステージに立っているのです。」
美由紀の話を聞いて一同「へぇ〜」となる。
「ねぇねぇ、着物を着るってどんな感じ?私、着物なんて着たことなくって…」
「それはですねぇ…」
あーちゃんの質問によって美由紀の着物話に花が咲き、マイナの着物失敗談の話等がドンドン出てきて五人の話が尽きることはなかった。えみるがふと時計を見ると、16:00を指そうとしている。
「あ、もう四時だ。美由紀ちゃん、発表会の準備とかはないりゅん?」
「えっ、もうそんな時間なんですか?楽しかったのでこんなに時間が経っているとは思いませんでした。そろそろ戻らないと…」
「それではわたくしが一括して払ってまいりますので、店を出てからお三方から頂戴いたします。」
「了解。」
美由紀は「あれ?」と言う顔をした。
「お三方と申しましたよね?それじゃ一人払わない方がいらっしゃるんじゃ無いですか?」
「もっちろん!美由紀ちゃんの分は私達で払うよ。」
「そ、そんな事をしていただくには行きません。私も払います。」
「まぁまぁ、じゃぁ奢った分発表会で頑張ってくれればそれで良いよ。」
「そうですか…。それじゃぁ、お言葉に甘えさせていただきます。ありがとう御座います。」
人と言い争うのが嫌いな美由紀は、これ以上我を通すと角が立つと思い、素直にえみる達の行為を受けることにした。アンミラからでた五人は笑顔でいっぱいである。
「ホントに今日は楽しかったです。皆さんありがとう御座いました。」
「えみりゅん達も楽しかったりゅん。名残は惜しいけど、またね。それじゃ発表会頑張って。」
「ハイ。あ…あの…お願いがあるんですけど…」
と、美由紀が何か言いかけたときである。一人の初老の男性が駆け寄ってきた。
「あっ、美由紀お嬢さん。ここにいらっしゃいましたか…」
「一良さん、どうしたの?」
「実は、モデルの高校生が風邪を引いてしまって二人とも来られないと言うんです。」
「えぇっ!?二人とも?じゃぁ、若者向けの発表は私一人でやるの?」
どうやら、モデルが急病で来られなくなったらしい。幾ら急いで着替えても、元々三人で分担する着物を一人で着替えるのは無理な話である。
「でも、三人分だよね…。どうすれば…どうすれば……。あっ!そうだ。」
暫く考え込んでいた美由紀だが、ふとあることを思いついた。
【第28話終わり】