儀式を中止させる為に起きあがろうとするのですが、筋肉に力を入れるだけで激痛が走ってしまい動くことが出来ません。せっかくマイナさん達が助けに来てくれて状況が変わるかと思えば、結界により二人は何もできないのです。

　きっとどこかに結界の要があるはずだし、この純銀のＢＢ弾なら結界の要を崩せるはずなのに、結界を崩す術を持つえみりゅんは動けないし、動けるマイナさん達は結界を崩す術を持たないし…。
　悔しいよぉ…。けれども、悔やんでも明日香ちゃんの死へのカウントダウンが止まるわけではありません。今は結界の要を探すしかなさそうです。すると、極僅かではありますが、壁に緑色の光が…。あれは…何？

　あれは…蜘蛛？緑色の光をだす蜘蛛…、まさか…。

『天井と、目の前の壁と、足下。』

「はい？あ、確かに何か怪しげな蜘蛛がいますわね…って、うわぁっ！び、び、びっくしりましたわ。あなた、いつの間に…」

　あれ？マイナさんの驚きの声が聞こえます。

「あなた…確か来栖川さんだったわよね」

　あーちゃんの声で来栖川さんがいることを知りました。でも、何故ここに？

「えみりゅんさん、天井と、目の前の壁と、足下に蜘蛛が見えますわよね？」

　マイナさんの言葉に従いそれぞれを見ると、結界上に瞳を怪しく緑色に光らせている蜘蛛が…。そうか、やっぱりこの蜘蛛が結界なんだ。よぉし…足下の蜘蛛を撃ち落とした後、頭上の蜘蛛を撃ち、そのまま腕を自然落下させ、目の前の蜘蛛を撃てばいいよね。

タンッ！プチュ…

　発射されたＢＢ弾は、蜘蛛に命中。蜘蛛の瞳から光が消えます。

「えみりゅんさん、結界が消えかけていますわ。その調子です。」

　ようし、次は天井の蜘蛛か…。くぅ〜、腕を上げる毎に肩の激痛が激しくなるぅ〜。ふぅ…ふぅ…、幾度となく腕を下げたくなります。でも、ここで負けたら明日香ちゃんの命が…。

タンッ！プチュ…

　よし、天井のも命中。このまま腕を落として…。

タンッ！キン！

　しまった、狙いがそれた！うぅ…ダメ…もう腕を上げられない…。そうしている間にも儀式は進み、心電図計の心拍数の数字はとうとうテンカウントを刻み始めました。

「明日香、死なないで！お願い！」

　水晶玉からは、聞くに耐えない明日香ちゃんのお母さんの悲痛な叫び…。でも動けない、助けの手もない、もはやこれまでか…と思ったときでした。誰かがえみりゅんを抱き起こしてくれたのです。振り向いてみるとマイナさんでした。

「結界の蜘蛛を消して下さったおかげで、多少ですが潜れるスペースが出来ましたの。大丈夫ですか？」
「ありがとうりゅん。マイナさん、お願い。えみりゅんの腕を上げてもらえる？」
「こうですの？」
「痛たたた…」
「あっ…申し訳ありません。」
「大丈夫。そのままでお願いりゅん…」

　狙いを定めている時間はありません。蝋燭の炎を消せば儀式を中断できるはず。
　時間稼ぎにしかなりませんが…。

　タン…タン…タン…タン…

　ＢＢ弾の発射と同時に次々と蝋燭の炎が消えて行きます。黒マントの男は儀式を中断し、えみりゅんの方を向きました。水晶玉を見ると残りカウント３でストップ。
　よし、とりあえずは明日香ちゃんから目を逸らせさえすればいいから、これでＯＫ。危なかったぁ…。でも非常にヤバい状況であることには違いないんだよね。

「おのれ、こしゃくな真似をしおって。出来ることならばお前から生け贄にしてやりたいのだが、カードを使用するときにお前の命が必要だから黙っておけばいい気になりおって。こうしてくれるわ…」

　ヒュン…　カッカッカッ。

「うあぁっ！…っつぅ〜」
「えみりゅんさん！」

　黒マントの男は呪いの粘土人形に向かって多数の針を投げました。両腕と両足のありとあらゆる所に激痛が走ります。それに耐えきれなくなり、持っていたエアガンを落としてしまいました。

「フッ…余計なことはしない方が身のためだぞ。」

　黒マントの男がきびすを返し、戻ろうとします。いけない！儀式を再開されれば今度こそ明日香ちゃんの命がなくなる！でも、えみりゅんはこれ以上動けない…どうすれば…。

「えみりゅん、貸して！えぇ〜い。」

　タン…タン…タン…タン…

　キンッ！

「…！」
「わっ、わっ、わっ、わっ！あっ…弾切れだ。」

　あーちゃんがエアガンを拾い、先ほどのえみりゅんの様に蝋燭に狙いて引き金を引きます。でも、チューン（パワーアップ）されたエアガンなのであーちゃんは、エアガンの反動に振り回されています。
　結局、当たったのは狙いがそれて水晶玉に当たった一発だけでした。水晶玉にあたったとき黒マントの男の動きに変化が見られた様な気がしましたが、気のせいだったのでしょうか？

「マイナさん、リュックの中からスペアマガジンを出してあーちゃんに渡して。」
「は、はい。え〜と、これですわね？ハイ！」
「おっとっと。でも、これどうやって変えるの？わ、わ、わ、あの変なおじさん、こっちに来るよ。」

　黒マントの男は、手に何かを持ちあーちゃんの方へと向かいました。あれは…槍？いけない！

「親指の所のボタンを押せばマガジンが抜けるんだけど、あーちゃん！逃げて！」
「そ、そんなこと言っ…た…っ…て…、抜けたけど、は…入らない…あわわわ…」

フンッ！

「きゃぁぁぁ！」
『うわぁぁっ』

　あーちゃんは槍らしき物で払われ、えみりゅん達の方に飛ばされてきました。

「えぇい、先ほどから邪魔しおってからに。こうなれば、これ以上余計な真似が出来ない様、この槍でお前の心臓を刺してくれるわ。」
「私の命は、カードを使うときまで必要じゃなかったの？」
「この槍を使えば刺しても命はあるのだよ。ただし、死んだ方がまし…と言う程の苦しみを味わい続けるがな。でも、一度しか使えないから先ほどの娘は命拾いしたのだよ。」
「マイナさん、来栖川さん、えみりゅんを連れて逃げて！」

　あーちゃんが、えみりゅん達の前に立ちはだかります。

「は、はい。よいしょっ…きゃっ。」

　マイナさんと、芹香さんはえみりゅんの両脇を抱えて逃げようとしましたが、マイナさんが足を滑らせて転んでしまいました。

「そこをどけ。」
「イヤ。」
「どかぬと…。」
「やれる物ならやってみなさいよ。どうせえみりゅんにしか使えないんでしょ？」
「どけぇぃ！」
「きゃぁぁぁ！」

　黒マントの男は、あーちゃんを突き飛ばした後、えみりゅんの前に立ちはだかり槍を高々と掲げました。

「手間ばかりかけさせおって…。」
「あわわわ…」

　えみりゅんとマイナさんは、恐怖のあまり硬直してしまいました。…が、何か音が聞こえます。音の方を見てみると、あれ？芹香さん、床に何か書いている。なんだろ？四角い魔法陣と矢みたいだけど…。
　あっ！槍が振り下ろされた！もうダメ…。つい、えみりゅんは反射的に手をかざしてしまいました。

『カーン』

　バチッバチッ！

「うぉっ！」
「きゃっ！」

　芹香さんが呪文を唱えた瞬間、床から光の矢が放たれ、黒マントの男の持っている槍に命中しました。

「くっ…インドラ（雷神）の矢とは、味な真似を…」

　インドラの矢？どこかで聞いたような…、あっ、そうだマントラ（真言）だ。クラウリーのカードの力を知っていると言い、マントラの呪法を使えると言い、芹香さんって一体何者なの？

　そして、この攻撃で槍が壊れてくれれば良いんだけど…。

【第20話-1終わり】