自転車バトルで転けてしまった明日香。そんな明日香を見てシャワーを勧める煙草屋の主人。煙草屋の主人が外出している間店番をしていたえみりゅんだが、客の流れが途切れたとき、明日香の様子を見にいくと明日香の制服を見つける。
　好奇心から制服を着ようとする所を、明日香に発見される。明日香は、下着姿のえみるをからかいに出たが、逆にえみるに押し倒されてしまい、予想もしない出来事に、動くことはもちろん、声を上げることすらも出来ないでいた。

「明日香ちゃんの太股きれい…」
「ひっ…膝を割り込ませないで…。やっ…」
「うふ…どうしたの？」

　えみるは自分の右膝を明日香の両膝の間に割り込ませると同時に、明日香の太股を優しくなでる。

「や、やめて…。わっ！」

　明日香が更に後ろに逃げるが、手を滑らせてしまい仰向けに倒れる。

「明日香ちゃんの肌ってすべすべで綺麗…。つん…」

　明日香が仰向けに倒れた拍子に、ブラジャーの左側の肩紐が外れてしまい、左の乳房が露わに出てしまった。それを見たえみるは、肩口から乳房に向かって、ゆっくりと指でなぞり、最後には軽く指で乳房を押した。

「ひっ…。ひぃ…」

　えみるの攻めに引きつった声しか出せない明日香。

「明日香ちゃん…」

　明日香の名を呼ぶと、そっと顔を近づけてくるえみる。
　もう唇が触れるか触れないかの距離である。既にえみるの顔は近すぎて見えなくなっている。明日香は恐怖のあまり目を瞑ってしまった。

（あぁ…も、もうダメ…。ファーストキッスはあの人としたかったのにぃ。神様仏様観音様にパパにママ。女の子同志のアブノーマルな世界に流されるままな明日香を許して下さい。）

　ところが、いつまで経ってもキスをされる感触がない。明日香はおそるおそる目を開けてみると、先ほどまで目の前にあったえみるの顔はなく、上体を起こすと、明日香の右脇でしゃがみ、いつもの様にあどけない笑顔を向けているえみるの姿があった。

「うふ…冗談だりゅん。」
「へ？」
「さっき、えみりゅんの胸をさわってからかった仕返しだりゅん。」
「はぁ？あ…あはは。はぁ…」

　今までのえみるの行動が演技だと分かった瞬間、緊張が一気に解け、明日香は大の字に寝っころがってしまった。

「あ、明日香ちゃん？どうしたの？」
「い、いや…ちょっとね…」

（あぁ、危なかった。なんか、目の前一面に薔薇とか百合の花とかが見えたときにはどうなるかと思ったよ。）

「ねぇ明日香ちゃん、この破れた制服どうするの？」
「えぇ？………欲しいの？」
「できれば…」

　えみるの答えに明日香はしばし考えたのち答える。

「いいよ。」
「わーい。ありがとりゅん。あ、そだ。ちょぴっと待っててねぇ…」

　そう言うと、えみるは破れた制服を持ってどこかに消えてしまった。明日香が夏服に着替えようとしたとき、えみるの制服を見つけて手に取ってみる。

（ふーん…。これがちまたで人気の萌黄女子の夏服か…）

「明日香ちゃん、えみりゅんの制服で何やってるの？」
「いや、これが噂の夏服萌黄なんだなぁ…って、あれ？それ…」

　明日香が振り向くと、えみるは清華女子の夏服を着ていた。

「フフフ…明日香ちゃんから貰った制服の袖を落としてぇ…夏服にしてみたんだりゅん。」
「へぇ…ミシンかけるの上手いねぇ…」

　えみるがくるくる回りながら明日香に尋ねる。

「どう？えみりゅんカワイイ？」
「うん。制服が…」
「ぐ…。ぶぅぅ〜」
「あぁ嘘嘘。カワイイよ。あ、ねぇねぇ…。じゃぁ、私この萌黄の夏服着ていいかなぁ？」
「いいよ。」

　えみるの許可を得て、明日香はスカートを穿く…が…、

（ぐっ…。フ…フックが届かない。後少しなのに…。まさか、私よりウェストが細いとか？えぇい…、ふぅ…何とかなった。）

　どうやら明日香には若干サイズが小さかったようである。明日香が上着を着終えた頃、煙草屋の主人が戻ってきた。

「じゃ、そろそろ準備しようか？」
「そだね。もちろん制服はこのままだよね。」
「もちろんだりゅん。」

　二人は萬屋の準備を始めた。煙草屋の主人が二人を見かけると、二人の服装が違うのに気づいて声をかける。

「あれ？二人ともどうしたの？」
「えへへっ。明日香ちゃんのいらなくなった制服を貰ったんだりゅん。ねぇねぇ…えみりゅんカワイイ？カワイイ？」
「さっき転倒したときにボロボロになった私の服を上げたんです。その代わりと言ってはなんですが、えみりゅんの制服を借りたんです。ちょっとした"変身"でしょうか？」

　清華女子の制服が気に入ったのか、嬉しさいっぱいの笑顔で煙草屋の主人に向かって話しかけるえみる。

「うん、とってもカワイイよ。」
「あはっ。ねぇねぇ…カワイイえみりゅんねぇ…ケーキ食べたいなぁ。」
「よ…よし。ケーキと言わず、おぢさんがいいところへ連れていって上げやう。」
「きゃっ、肩抱かれちゃった。どこへ連れていってくれるのかなぁ…どきどき。」

「何やってんのよ！ハリセンアタック！」

パン！パン！

『あう』

　二人が歩き出そうとしたときである。明日香がハリセンで二人の後頭部を叩いた。

「まったく…二人とも"エンコーごっこ"やってんじゃないわよ。恥ずかしいわね。清華の生徒は"エンコー"なんてしないの。」
「わっはっは。えみるちゃんが可愛かったからつい…」
「にゃははは。冗談だよ冗談。」

　と言う騒動があるや否や

「ハーイ！そこの萌黄のカワイイ彼女、ドライブ行かない！？」
「えっ…アタシ？アタシ？うん！」

　と声をかけられ、返答した明日香であるが…

「なにやってるんだりゅん…てぇ〜い。」

スパーン！

『キャイーン！』

　こんどはえみるのハリセンが明日香の顔面にヒットした。

「明日香ちゃん、人のこと言えて？萌黄の生徒は尻軽じゃないりゅん。おじさんもおじさんだりゅん。」
「いやぁ、パチンコに行く前に煙草買いに来てみたらさぁ…明日香ちゃんが萌黄の制服着てるじゃない？つい声かけちゃったのよ。はっはっは。」

「あ、そうだ。二人ともせっかくおめかししているんだから、たまにはお休みして小丸坂にでも遊びに行って来なよ。結構屋台出ていたよ。」

「どうする？」
「う〜ん、えみりゅんはいつでも着られるからいいけど、明日香ちゃんがねぇ…。明日香ちゃん、今日持ち込み依頼ある？」
「いや、ないよ。」
「じゃぁ、遊びに行かない？」
「よし、行こうか！」

『それじゃ行って来まぁす』

　準備しかけた萬屋を片付けると、二人は小丸坂へと歩き始める。小丸坂の屋台をいろいろ見ていると、電柱に貼ってあるポスターが目に止まった。

「ねぇねぇ…明日香ちゃん、写真コンテストだって。」
「なになに？優勝者には豪華賞品有り…カメラレンタル有りか。どうする？」
「いくっきゃないりゅん。」

　そのコンテスト会場は小丸坂から少し離れたところにある公園で行われていた。
　明日香とえみるがコンテストに申し込み、カメラを受け取ると公園へでた。

「はぁ…何を撮ろうか迷うりゅん…」

　そんなえみるの肩をつつく人物がいた。えみるが振り向くと、明日香が自分を指さしていた。

「ふにゅ？」
「ここ。ここにいるじゃない。モデルにピッタリの人物が。」
「あ、明日香ちゃんを？」
「なによぉ…。容姿端麗、スタイル抜群のアタシを撮らないで何を撮るのよ。」
「わ、わかったりゅん。」

「じゃ…まずあのカワイイ建物の所へ行こうよ。」
「うん。」

　最初は両手を広げてそのまま前屈みになり、右手を左足のつま先に付けていると言う明日香任せのポーズで３枚撮る。

「次に…あの噴水がいいなぁ」
「ＯＫ！」

　次にえみるの指示で、噴水の脇に座る姿勢で２枚撮る。

「もうあまり時間がないね…つぎでラストか…」

　すこし悩んだ後、近くにいた人の眼鏡を借り、大木に寄りかかりながら文庫本を読む文学少女のポーズで２枚撮った。えみるがカメラを見ると、フィルムの残りが一枚である。

　それをみた明日香は近くの人に声をかけた。

「すみませーん。私たちを撮っていただけますか？」

「いいですよ。いきまーす。ハイ・ポーズ！」
『ブイ！ありがとう御座いましたぁ。』

　二人は礼をしてコンテスト会場の受付に戻った

。 「お疲れさまでした。それでは、４時からコンテストの結果を張り出しますので、その頃、いらして下さい。」

　コンテストの結果発表まで、約一時間。二人は小丸坂の屋台巡りをして時間を潰すことにした。明日香チェックで調査済みの明石焼きの店で、屋台の主人と話し込んでいると発表時間が近くなったので公園に足を向ける。

　二人がコンテストの受付海上に到着すると、すでに結果が発表されていた。

「えっと…星野＆永倉は…っと。」
「あ！あった。」
「え？どこどこ？」
「あそこだりゅん。」

　惜しくも２位ではあったが、そこには最初に撮影した両手を広げて右手をつま先に付けている元気な明日香の写真が張り出されてあった。

「やったー！で、２位の商品はなんですか？」
「ごめんなさい、商品があるのは１位だけなの。」
『えぇ〜』

　残念がる二人。

「でも、まぁこれでモデルが良いと言うことが証明されたよね。」
「制服がカワイイからだりゅん。」
「モデルだよ！」
「制服だりゅん！」
「モデルだよ！」
「制服だりゅん！」
「モデル！」
「モデルだりゅん！」
「制服！」
「モデルだりゅん！」
「制服！」
「ほぉら…やっぱり制服がいいからだりゅん。」
「あれ？」
「ぷぷぷ…あははは。」

　いつの間にか主張が反対になっている明日香。えみるはとうとうこらえきれず笑い出し、明日香もそれにつられて笑い出した。

「あぁ〜！あはははは。」
「さて、帰ろうか？」
「うん。あ、そうだ。すみませぇん。撮った写真って頂けるんですか？」
「あぁ…ごめんなさい。コンテストに応募した写真は規則で上げられないの。」
『えぇ〜』

　またも残念がる二人。

「あ、そうそう。ハイ、コレなら上げられるわ。」

　受付の人が差し出したのは、最後の一枚で撮した二人一緒の写真である。

「え…？でも。」
「このコンテストはね、ペアで参加と言うことから被写体には一人という制約があるの。この決まりがなければ、この写真が１位だったんだけど、残念ながらエントリーする事は出来なかったの。焼き増しして置いたから、ハイ。」

『わぁ…ありがとう御座います。』

　二人はそれぞれ写真を受け取るとコンテスト会場を後にした。

「明日香ちゃん…いい表情してるね。」
「えみりゅんも、いい表情してるよ。」
「さぁ、お土産を買って煙草屋に戻ろう。」
「うん。」

　二人はお土産に明石焼きを買って煙草屋へと向かった。

【第12話終わり】