秋葉原に詳しいえみる達に助けを求めるべく、待ち合わせの秋葉原駅に向かう明日香達。ところが、明日香は知り合いと出会い、どうして此処にいるのかと尋ねられた。

「いや、友人に連れられて来たんだけど、雪子さんは？」
「えっ？わ、ワタシ？ワタシは…その…買い物、そう、買い物なんですよ。」

　明日香と出会った相手は、明日香のバイト先「ぴあきゃろっと」で一緒に働いている河合雪子という眼鏡の似合う女の子である。

「買い物？秋葉原って洋服なんか売っているの？」
「こ、これは別のところで買ってきたんですよ。ところで、そちらの方は星野さんのお友達の方ですか？」

　雪子にはバイト仲間に隠している事がある。それは「同人関係の人間」と言うことだ。手に持っている品だって、洋服じゃない。コスプレの衣装である。周知の通り、秋葉原はその手の店がたくさんある。

　だから、雪子は会うはずのない場所で、会うはずのない人に会ったことに動揺してしまった。

「まぁ、話せば長くなるんだけど…。あ、そうそう『ケイブックス』って店、知りませんか？」
「 ケイブックス ですか？ K-BOOKS なら、この向かい側の三階にありますよ。」
「およ？そうなんだ。ありがとう。どこかのビルの四階にあるって聞いたんだけど、無くて困っていたんだ。」
「移転しましたからね。」
「結構お詳しいんですね。」

　真奈美が相づちを打った。だが、この場合は、雪子にとっては相づちではなくツッコミになってしまう。

「えっ？あ…あの、私、用事があるから失礼します。」

　雪子はそう言うと早々にその場を立ち去った。ただ、去り際に明日香に耳打ちをした。「今日のことは秘密に…」と。

　雪子に教えられたとおりに向かい側の入り口から入り、三階までエスカレーターで上る。すると、壁に誘導の看板が立てかけてあったので、四人はそれに従い店の中に入った。
　店の中に入った瞬間、四人は言葉を失った。

『いったい何なの？此処は』

　それが彼女たちの第一印象だったらしい。
　それでも、明日香とるりかは比較的早くに自分を取り戻した。

「ま・まぁ、とりあえず店内を回って見ようよ」

　明日香の先導で皆が店内を回ることになった。まずは入り口から左側のスペースから。

「あれ？これってＵＦＯキャッチャーとかのプライズグッズ？」
『え？あ、ホントだ。あ〜なんでこれが売っているの？』
「あぁ、この人形カワイイ…」

　明日香の呼びかけに、驚く るりか と ほのか 、デフォルメされたキャラクターグッズに感動するプライズとは無縁の真奈美。プライズコーナーを抜け、左手にはコミックＣＤ売場があった。そこは足早に過ぎ去り、次にたどり着いたのがポスター売場。

「あぁ！このゲームの販促ポスターが売ってるぅ…なんでぇ？」
「るりかちゃん、どれどれ？￥１０００か…。ふ〜ん。」

　このコーナーでは、るりかと明日香が二人で盛り上がっていた。ゲーム等に詳しくない真奈美とほのかは、だまって二人を見ているしかない。ポスター売場を過ぎると、今度はトレーディングカード＆テレホンカード売場（と言うか、ガラスケースになっている）に到着。
　中には￥６００００もの値段が付いているテレホンカードもあり、プレミアムなテレカの取引に驚く面々であった。

「るりかちゃん、欲しいのあった？」
「いや、なんか無いみたい。」
「レジで聞いてみれば？」

　るりかがメモを店員に渡し売場を聞いていた。

「それでしたら、この奥のコーナーの『は』行をお探し下さい。」

　指示された売場を見た瞬間、るりかのこめかみに青筋が立った。

（あ、あのバカ兄貴。なんちゅうものを人に、それも花も恥じらう乙女に頼むんだか、一体。）

　その売場とは、入り口右側にある同人誌コーナーである。

「るりかちゃん、解った？」
「うん。あそこの売場だって。」
「えっ…でも、なにか…雰囲気が違いますよね。」
「ホント。なーんか、ヤな予感。」
「ま、まぁ、みんなで早く探しちゃおうよ。ね。」

　明日香の呼びかけに足取りは重いが、目的の棚に向かう４人。ところが…ほのかがうっかりポシェットを引っかけて、平積みにされている本を落としてしまう。

「あっ、落としちゃった。………。い・い・イヤ―――！あ、アタシ外出てる！」
「ほのかさん、落としたままですよ。仕方ないですね、拾わな…、あ゛…………。あ、あ、あ、あの…わ、わ、私も、そ…外で待ってます。」

　ほのかが急に走り出す、真奈美もしどろもどろになりながら、しかも、右手と右足を同時に出して歩きだす等、ただならぬ様子をみせた二人。あまりにも急な出来事だったので、明日香とるりかは声をかけることができなかった。

　一方、外に出たほのかは、今度は周りにいる男性の視線に過剰反応してしまい、一人でいる不安から店の中に戻ろうとしたが、先ほどのことを思い出すと店の中に入ることも出来ず、外でウロウロしていた。

「ほのかさん。」
「うっひゃぁ。」

　ほのかが驚きつつ振り向くと、そこには真奈美が赤い顔をして立っている。

「杉原さん。ひょっとして…アレ、見た？」
「は…はい。」
「ここで待っていよっか？」
「そうですね。」

　ほのかはそれ以上何も言わず、真奈美と一緒に外で待つことにした。

　さて、一方店内にいる明日香とるりかであるが、ほのかが落としたままにした本を拾い向かうと本の表紙が目に入ったのだが、それを見た瞬間、二人の動きが固まった。その表紙に描かれていたのは、ＳＭ系の衣装で辱めを受けている情景の、いわゆる１８禁(for adult)系の同人誌であったからである。

「あっちゃぁ〜、これは男性恐怖症と純粋培養のお嬢様にはキツ過ぎるわ。」
「いや、そうじゃなくても十分キツイよ…これ。」
「星野さん、早く買って出よ。」
「うん。買うヤツの名前教えて。一緒に探すから。」

　るりかの差し出したメモを元に、『は』行を探す二人。途中何度も頭が痛くなりそうになるのをこらえていたが…

「あった！……けれど……」
「どれどれ？……う゛っ！」

　先に見つけたのはるりかだった。明日香がるりかの元へ駆け寄るが、表紙を見た瞬間、２，３歩後ずさった。表紙に描かれていたのは赤いロングヘアでヘアバンドをしている美少女。でも服装はセーラー服の上半身だけで、手錠、足輪でしばられていて、軟禁状態の様な扱いであった。

　これにはさすがの二人も逃げ出したくなった。

（はぁ〜、バカ兄貴、帰ったら絶ぇ対ぶっ飛ばしてやる）

「ご…ゴメン、気分が悪くなったから、外の空気を吸ってくる。」
「あっ、星野さん、こんな状況で一人にしないでぇ…」

　明日香も店の外へ出ようとしたが、るりかに手を掴まれてしまった。るりかをみると不安な顔をしている。

（考えてみれば不安がるのも無理ないか…。しゃぁないな…。）

「ゴメン。さっさと買ってでよ。」
「うん。こっちこそゴメン…」

（あ〜ん、なんで私がこんな目に会わなきゃならないのぉ(^^;。でも、パソコンを弁償できるだけのお金が今は無いしなぁ…。仕方がない。ちゃっちゃと終わらせて店を出よ…。ふぇ〜ん。）

　るりかは肩を落としながら同人誌をレジに持ってゆく。
　るりか達が店を出ると、ほのかと真奈美が寄り添うように立っていた。

「お待たせぇ…。いやぁ、めっちゃ恥ずかしいのなんのって。な…なにその目？文句なら兄貴に言ってよね！」
「るりかさんに罪はないんですけれど…」
「ねぇ…」
「ひっどーい！アタシだって、アタシだって泣きそうになるのをこらえていたんだからぁ。」

　明日香はとりあえず喫茶店かどこかに入って一休みしようと考えた。

「ねぇ…もし良かったらあたし達の友人と合流してどこかでお茶しない？」
「私は構いませんが、るりかさん達は？」
「アタシも別に構わないよ。」
「あ、アタシ…出来れば秋葉原以外の所を希望するんだけど…。なんかこの辺りの雰囲気、特にあの店に入る男の子の視線がなんか恐いので…」

　ほのかの提案に異論を挟む者などいない。

　明日香達が待ち合わせ場所に着いた時間は２時１５分。１５分遅れの到着である。明日香が辺りを見回していると、明日香のＰＨＳが鳴った。電話の相手はえみるである。
　何でも、目的の店に行く途中で色々寄り道をしてしまい、時間をオーバーしたらしく、あと１５分で待ち合わせの場所に到着できるとのことであった。

　２時３０分丁度に、秋葉原駅前にえみる達３人がやってきた。どうやら掘り出し物があったらしく、えみる達は上機嫌である。明日香は、るりか達と知り合った状況を簡単に説明した後、一緒に合流してどこかで落ち着いて話さないかと提案した。

　えみる達も特に断る理由はないので、明日香の申し入れを受け入れた。

「明日香ちゃん、じゃんがらラーメンはどうだったりゅん？」
「ん？うん、まぁまぁかな。」

　先ほどのショックの影響か、返答が少々無愛想気味である。

「あの…私たちだけで楽しんでしまったので、怒っていらっしゃるのですか？」
「い、いや…そうじゃないんだ。ただね、ちょっと見ちゃいけない物を見たって言うか、ショックを受けたって言うか…そんな感じ。」
「あのね、こっちでも来る途中で喫茶店かどこかで落ち着いて話さないか…って"マイナ"さんと話してたんだけど、星野さん、山手線とかで行ける場所でどこかお洒落なところ知らない？」
「あっ、こっちも秋葉原以外でならって事だったんだよ。ちょ…ちょっと待って。えっとねぇ…」

　明日香はポシェットからお手製のガイドブックを取りだし、あれこれみんなの希望を聞いてとりまとめ、山の手線に乗り、目的の店へと向かった。

　そ・し・て…。その夜、中部地方のとある家の一室にて。

「たわけぇ〜！よくも、アタシをあんな所であんな恥ずかしい思いをさせて…」
「うぎゃぁぁぁぁ！」
「ふんっ！」

　そう、るりかの兄が「怒りゲージ満タン超技ＯＫ状態」のるりかにぼろ雑巾のごとくズタボロにされたのである。

【第10話終わり】