ピピピピピピピピピピピピピピピピ…

　えみるの眠りを覚ます電子音。えみるはむくりと起きあがり、その電子音の元へと歩き出し、部屋の隅にある受話器を取った。

「ふにゅ？…ハイ永倉です。……もしもしぃ？もしも〜し？」

　だが、えみるが呼びかけても相手から反応がない上、電子音は止まない。

「ほえぇ？」

　ねぼけながらも部屋を見回してみると、目覚まし時計が目に入る。思い出したように目覚まし時計の所へ向かい、アラームのスイッチを切った。

「電話じゃなかったのね、えみりゅん間違えちゃったりゅん。考えてみればあの電話にはモジュラーケーブルが繋がっていないンだっけ。さぁて、テレホーダイの時間が終わらない内に、巡回、巡回…と。」

　えみるは机に向かい、ノートパソコンにモデムカードとモジュラーケーブルを接続したのち電源を入れ、パソコン通信を始める。

「メールが２件だけかぁ…」

　メールの相手は、本日のオフ会に参加する人である。特にこれっと言った内容ではないが『情報通の人がいれば良いなぁ』と言うことが書かれていた。

（情報通の人か…、そうだ。）

　えみるは部屋の隅にあった電話を机の上に持ってきてモジュラーケーブルを繋ぎなおし、生徒手帳に挟めてあった名刺を取り出した。

「えっと、電話番号は…ぴぽぱぽぴぽぱぽうるとらえすぱぁ…っと。」

　ｔｒｒｒｒｒｒｒｒ、ｔｒｒｒｒｒｒｒｒ

　枕元の電話の呼び出し音で心地よい眠りを邪魔された人物が一人。目覚まし時計を手元に寄せ、時間を確認すると朝の８時台である。

（誰よぉ…こんな日曜の朝っぱらから…。今日はバイトオフだかんね…このまま居眠りこいちゃえ。）

　だが、電話の切れる気配が一行にない。結局根負けして電話を取ることにした。

「ハぁイ…星野ですけれど。」
『明日香ちゃ〜ん、おっはようりゅ〜〜〜〜〜ん。えみりゅんだよぉ。』

（ぐはぁ…）

　寝起きにえみるのハイテンションな叫び声を喰らってしまった明日香は、しばしの間ベッドに突っ伏したままであった。

『もしもし？明日香ちゃん？もしもしぃ？』
「あ…アンタねぇ…なに朝っぱらからハイテンションなのよ？」
『ふにゅぅ？ねぇねぇ、今日暇？』
「まぁね、それが何か？」
『買い物付き合って欲しいんだりゅん。』
「べつに良いけど、何買うの？」
『いろいろだりゅん、じゃぁ１時にジェラシックパーラーで。それじゃバイバイりゅ〜ん。』

　すっかり目が覚めてしまった明日香は、二度寝をあきらめて着替える事にした。
　久々の日曜のバイトのオフを明日香はのんびり過ごしていたが、やがて待ち合わせの時間が近づいたので、お手製のガイドブックをポシェットに入れ、家を出た。

　一方、えみるのほうといえば、ノートパソコンと予備バッテリーを河童の形をしたリュックに入れ、準備万端（？）でジェラシックパーラーに向かった。

〜そのころのジェラシックパーラー

　集合時間の少し前、ジェラシックパーラーの前で人を捜すような感じできょろきょろしているビデオケースくらい大きさのノートパソコンを持っている三つ編みの女の子が一人。

（う〜ん、それらしい人はいないなぁ…）

　ところが、その視界に河童の形をしたリュックを背負った人物が入ると、慌ててそのノートパソコンを開き、何かを確認すると件の人物の前に向かった。

「あの…占いフォーラムのオフ会に参加される方ですか？」
「え、えぇ…そうですけど、どちらさまでしょうか？…あ、アタシ"えみりゅん"です。」
「初めまして。"あーちゃん"と申します。」
「わぁ、あなたが"あーちゃん"？いつもレスありがとうりゅん。」

　しばらく二人で話し込んでいると、明日香がえみるの所へやって来る。

「おまたせぇ」
「あ、あなたが"マイナ"さんですか？」
「はぁ？」

　待ち合わせ場所に着くや否や、声をかけられた明日香だが、相手が全く見知らぬ女性なので、どう反応して良いか解らないでいる。

「あーちゃん、違うよ。彼女は私の友達の明日香ちゃんって言って、今日のオフ会のメンバーじゃないんだ。"マイナ"さんが「情報通の人がいればなぁ」ってメールに書いてあったんで、来て貰ったんだりゅん。」

　えみるの言葉で"あーちゃん"は納得したが、今度は明日香が不思議顔である。

「へっ？オフ会？何それ？」
「あ…。あはは、実はこの間ちょぴっと話していたオフ会が、今日のこの集まりなんだりゅん。それで情報通の人が欲しいなぁ…って声があったんで、明日香ちゃんに来て貰ったんだりゅん。」
「はぁ？何それぇ…。アタシ帰る。」
「わあぁ、待って待って。」

　その場を去ろうとする明日香の腕にえみるがしがみつく。明日香は腕を振るうぐるぐる回転するなどして必死で引き離そうとしたが、えみるはスッポンのようにしっかりと食い付いて離れようとはしなかった。

「ぜぇ…ぜぇ…、しつこいわねぇ…」
「明日香ちゃ〜ん、カワイイえみりゅんのお願い聞いて欲しいんだりゅん。」
「女同士で「カワイイ」たって効き目ないじゃない。………。ぶうぅ…分かった分かったわよ。付き合えば良いんでしょ。もぅ…」
「ありがとうりゅん。」

　結局、明日香の根負けで幕を閉じることになる。

「となると、後は"マイナ"さんだけよねぇ…」
「はぁ…なんでこうなるの？」
「さっきから思っていたんだけど、二人の声って似ているから、まるでステレオ放送を聞いてるみたいだりゅん。」
『え？』

　えみるの言葉に、"あーちゃん"と明日香がの声のことで盛り上がっていると、一人の女性が三つ編みの女の子に声を掛けてきた。

「あら？伊東先輩ではありませんか？」
「あれぇ、安田さん。どうしたの？」
「ええ、今日はちょっとした会の集まりがありますので、その待ち合わせに。」

　しばらくは、一人で待つ安田と、三人で盛り上がっているグループという感じであった。

「"マイナ"さん…遅いねぇ。」
「はい？伊東先輩呼びまして？」
「いや、安田さんの事じゃないんだけど。そう言えば、安田さんの名前って舞奈だったね。」
「えみりゅん、探してくるね。」

　残る一人を捜しに行こうとしたえみるに、舞奈が声を掛けた。

「あ…あの、今"えみりゅん"と仰いましたか？」
「うん。」
「あらやだ。わたくしったら…わたくしがID:***XXXXX、ハンドル名"マイナ"で御座います。」

　思いもしない舞奈の言葉に、皆驚いた。"あーちゃん"がノートパソコンを開きIDを確認すると、確かにその通りである。

「じゃぁ、これでみんなそろったりゅん。あ、マイナさん、こちらが私の友人で明日香ちゃん。メールで要望していた情報通の人だりゅん。さて、どこへ行こうか？」

　明日香が待ってましたとばかりに、ガイドブックを取り出す。

「由紀恵…じゃなかった、あーちゃんねぇ、ペンタ君のメモリ買いに行きたいな」
「あら、わたくしもマグくんのポートリプリケーターを買いたいと思っておりましたの。」
「じゃぁ、秋葉原へ行くりゅん？」
「へ？秋葉原？ねぇ、お台場とか、みなとみらい２１じゃないの？ねぇ？ねぇ？あぁ、待ってよぉ…」

　不思議がる明日香を横目に、三人は一路秋葉原へと向かった。

【第８話終わり】