校門の入り口に明日香の姿を見つけたので、えみるは明日香の元へと駆け寄り声をかける。

「あ、明日香ちゃ〜ん。最近どうしたの？明日香ちゃん、顔を見せてくれないから、えみりゅん、ちょぴっと寂しかったよ。」

　ところが、えみるが声をかけても明日香は無言のままだ。その様子にとまどいながらも明日香に話しかける。

「ひょ…ひょっとして、えみりゅんの占い全部はずれた？」
「…………いや、大体当たってたよ。最後のヤツを除いて…」
「というと…？」
「最後の迷い犬の件は、死んでた。」
「えっ？やっぱり…あうっ！」

　えみるは「しまった！」と思い口をふさいだが、既に遅かった。明日香は、えみるの言葉を聞くと、キッと睨み静かな口調で話し出してくる。

「やっぱり結果は出ていたのね…」
「あ…あの…」
「どうして教えてくれなかったのよ！アタシ、探したんだから、ずっと探していたんだから。なのに…なのに…」
「ごめん…言えなかった。」
「くっ…。ばかぁ、えみるのばかぁ！もう知らないっ！」
「あ、明日香ちゃ〜ん、待って！」

　走り出す明日香の後をえみるは追う。途中何度も呼びかけられたが、明日香は走るのをやめなかった。それでも、えみるは諦めずに明日香の名を呼び続けた。
　もう何度呼び続けたことであろう、不意に明日香がうつむいた姿勢で立ち止まった。

「明日香ちゃん、どうしたの？あの犬に何が…。まさかあれは…」
「………そうだよ。あの依頼はアタシ自身のことだよ。アタシの家って母さんがブティックを経営しているし、父さんも結構遅く帰ってくるから、結構一人が多いんだよね。だから、ジョリィがいつも側にいたの。もう何年になるかな？そんな生活。だから、ジョリィがいなくなったときは寂しかった。だから占いで見つかったらな、とも思っていた。なのに…」
「そうだったんだ。ごめんね。」
「だから、どうして本当のことを教えてくれなかったの！？どうして！」

　真実をはぐらかされたことからか、えみるを問う声に力が入る。

「言えなかったんだよ。」
「だから、どうして！？」

　もはや明日香は半乱狂の状態である。
　そんな明日香に対して、えみるはつぶやくように答えた。

「占いの結果が余りにも可哀相すぎて言えなかったんだよ。依頼の手紙には「友達を捜して下さい。名前はジョリィです。」としか書かれていなかったんだけど、字の感じがとても優しかったし、「友達」と言うことから、もの凄く大切にしていることが伝わってきたんだよ。でも占いはそんな優しい人に伝えるにはむごすぎる結果だったりゅん。」

　この、むごすぎる占いの結果が当たっていたかどうかは、明日香本人の口から聞くまでもなく、今の無言状態と頬を伝う涙で十分判断できる。

「そんな優しそうな人に『亡くなっています』なんていえる？言ったら言ったで亡骸にあえなくとも、きっとその場所花を添えに行くと思うんだりゅん。もし何らかの拍子に『殺されていた』事実が判明したら…。その人の友達への想いを考えたら、言えなかったりゅん…。
　そして『どこかで生きています』とも嘘言える？この場合も探しに行くと思うりゅん。事実明日香ちゃんは探しに出たしね。えみりゅん、嘘は言えないよぉ。　だから、嘘にならない程度にぼかした結果しか言えなかったりゅん。ゴメンね……………ホントにゴメンね！」

　明日香が顔を上げると、えみるが自分の方を向いて泣いているのが見えた。
　その様子から、えみるも辛かったし、えみるの優しさ故の行動というのも理解できた。だが、理屈ではわかっても気持ちは収まらないものである。明日香は逃げるように走り去った。

　それから再び明日香がえみるの前から姿を消す日が続いたが、ふと、えみりゅん占いの場所にひょっこりと姿を現した。

「こんにちは。」
「こんにちは明日香ちゃん。」

　しばし、二人の間に沈黙が続いた。

「アタシ、あの占いの結果を考えていたんだけど『横浜にいない』っていうのは『肉体』の事じゃなくて『魂』なのかなぁ…って。そして、占いには当たり外れがあると言うことを忘れてた。この間のアレってアタシの八つ当たりだよね。ホントにごめんなさい。」

　明日香の言葉にえみるは黙って首を横に振って答えた。

「ありがとう。しかし、ホントに良く当たるねぇ。これで繁盛しないのが不思議なくらいだよ、全く。」
「明日香ちゃんのおかげで、一日に二、三人位はお客さんが来るようになったんだりゅん。お金を貰う貰わないは別にして、えみりゅん嬉しいんだぁ。明日香ちゃん、ありがとう。」

　こんどは明日香が黙って首を横に振って答えた。

「明日香ちゃん、お蕎麦食べにいかない？」
「えっ？別に良いけど…」
「それじゃ、決まりだりゅん！ちょぴっと待っててね。」

　えみるは、机等を片付けはじめ、煙草屋の主人に挨拶をすると、えみるを待つ明日香の元へと駆けより、えみるの先導で蕎麦屋へと向かった。その蕎麦屋へは電車を乗り継ぎ、新元町の駅から若干歩いたところにある。

「長寿庵…ここがそうなの？」
「そうだりゅん。」

　二人が中にはいると、夕食時の時間帯のせいか、店の中は混雑していた。

「ほえぇ…。」
「ちょうど夕飯時でもあるしね。大丈夫、二人くらいの席ならあるりゅん。」

『いらっしゃい。』

「こんにちは、二人だけど大丈夫かなぁ？」
「ちょうどそこが空いたよ。えみるちゃん。」
「ありがとうりゅん。」

　えみると明日香は、たった今空いた席に座りメニューを開いてみる。明日香はメニュー以外の日替わりお薦め品が、壁のお品書きにあるのに気が付き、そっちも見ていた。しばらくメニューを見た後、えみるは鴨南蛮、明日香はざるそばを注文した。

　やがて、そばの良い香りと共に注文の品が届けられる。

「ねぇ、今回のことで一つ思いついたんだけど…」
「ふにゅぅ？」

　えみるは蕎麦を食べながら、返答した。

「宣伝した結果、結構ペットの捜索依頼って多かったじゃん。これくらいの依頼解決なら、アタシ達にも出来そうな気がしない？」
「？？？」
「つまり、占いと同時に簡易私立探偵みたいなこともしてみないか…ってこと。」
「えみりゅん、探偵なんてやったこと無いから分からないりゅん。」
「探偵というと大げさかな？占い＆萬屋…何でも屋ってイメージかな？」
「う゛〜ん…」

　えみるは腕を組みながら考える。

「手始めに例のペット捜索屋さん、やらない？アタシみたいな思いは、させたくない…って言ったら格好よすぎかな？えへへっ。で、慣れてきたらいろいろな依頼に挑戦してゆくの。」
「そうだね。そう言う感じなら面白そうだりゅん。」
「よし、決まりぃ！よろしくね。」

　握手を求める明日香に、えみるは笑顔で手を差し出した。その後明日香の穴場な喫茶店『黄昏刻』に向かい今後の方針についていろいろはなしていたが、どうしても名称だけが決まらなかった。

「明日香ちゃん、えみりゅんねぇ『りゅんりゅん萬屋』が良いなぁ。」
「う〜ん、なんかちょっとアレだけど『何でも屋』って雰囲気はあるか…じゃぁ、それにしよう。」
「うん。」

『それじゃ、来週、例の煙草屋で』

　店を出た後そう言うと、二人は黄昏刻を後にした。

【第６話終わり】