日曜日。気持ちよい目覚めの後、えみるがカーテンを開けて外を見ると、雲一つない快晴であった。

「うわぁ…いい天気だりゅん。こんな日はダーリンに会える気がするなぁ…。いや、きっと会える。えみりゅん、そんな気がする。よぉし、出かけよう！」

　黄色いワンピースに着替え、身支度を整え、えみるは外出した。外出とは言っても、どこか目的の場所へ行くわけではなく、その日の気分に任せて適当に歩き回るだけである。

「りゅんりゅりゅりゅりゅ〜ん、今日はダーリンに会えるかなぁ？りゅんりゅりゅりゅりゅ〜ん…っと。」

　先日初めてのお客が来たこともあり、ルンルン気分のえみるであった。しばらく歩くと可愛い外装の飲食店が目に止まった。

「にんじんさん…。よぉし、ここにしよ。」

　えみるはそうつぶやくと店内へと入る。えみるが店内にはいると、受付係と思われる眼鏡をかけたロングヘアのウェイトレスが声をかけてきた。

「いらっしゃいませ。何名様でしょうか？」
「あ、一名です。」
「では、こちらへどうぞ。」

　店内の内装が気に入ったのか、ウェイトレスに案内されている途中、店内の内装をきょろきょろ見回しているえみる。

「オーダーが決まりましたらこのベルでお呼び下さい」

　ウェイトレスはえみるを席まで案内して、メニューを置き一礼した後席を離れる。

　メニューを見ると色々な品がある。いろいろ迷っていたが、デザートが充実していることに気が付く。しかし、えみるはメニューを見るのに夢中になっていて、自分のテーブルにウェイトレスがオーダーを取りに来ていることに気が付かなかった。

「失礼します。ご注文はおきまりでしょうか？」
「えっ？も、もうちょぴっと待って欲しいりゅん。」

　えみるはメニューを見ながら答える。数秒悩んだ後注文の品が決まった。

「えっと、アイスティとチーズケーキ２つお願いします。」
「アイスティと、チーズケーキ２つですね。畏まりました。占い師さん。」
「えっ？」

　思いもよらない呼びかけに、えみるは顔を上げた。そこには「えみりゅん占い」の初めてのお客である明日香が立っていた。だが、明日香の表情は幾分不機嫌そうである。

「どうも。先日占ってもらいました、星野明日香です。初めまして。」
「永倉えみるです。初めまして「えみりゅん」…って呼んでね」

　えみるが笑顔で応じても、明日香の表情は不機嫌なままである。えみるは二人の間に漂う重苦しい雰囲気に耐えられなくなってきて、先日の占いの結果を聞くことにした。

「あ…あの、えみりゅんの占い…外れちゃったのかなぁ？」
「いいえ。結構当たりました。」
「うわぁーい。えみりゅんの占いが当たったぁ。よかったりゅん。」
「ちっとも良くないんですけど…」
「え？ど…どうして？」

　疑問に思ったえみるは明日香に尋ねる。明日香は何も言わずに前髪を上げ、赤く腫れた額を出した。

「うわぁ。真っ赤っか。」
「占いが当たって、こんな風になったんだけど…」

　明日香はえみるの目の前まで迫った。

「そ…そんな風に迫られても、えみりゅん、困るんだりゅん…」
「まぁ、いいわ。では、ごゆっくりどうぞ。」

　一礼して明日香は席を離れので、重苦しい雰囲気から開放されたえみるは、ほっと一息を付いた。そして、ウィンドの外を眺ながらお冷やを一口飲んで注文の品が来るのを待つことにする。

「お待たせしました。アイスティとチーズケーキ２つです。」

　しばらくすると、明日香が注文の品を持ってきた。トレイの上には、ランチセットとオレンジジュースが２つ載っている。

「失礼ですが、相席よろしいでしょうか？」
「え、ええ。構わないりゅん。」

（えっ？）

　明日香が自分の前に座ったので、えみるは少し驚いた。明日香の姿をよくよく見ると制服の上に上着を羽織っている。

「あ、あの…？」
「私も丁度お昼なの。で、基本的に休み時間はフロアにいないんだけど、フロアに出る場合は、この上着を着て声をかけられないようにしてるのね。」

　そうは言われても、なぜ明日香が相席をしてくるのかが不明である。

「一番の理由は、アナタに聞きたいことがあるんだけどね。あ。ハイ、これ。」
「えみりゅん、オレンジジュースは頼んでいないけど…」
「アタシのお・ご・り。一番欲しい物が売り切れる前に買えたお礼。ま、こんな風になっちゃたけどね。」

　明日香は、赤く腫れた額を出して苦笑いをした。

「き…聞きたい事って、なにかなぁ(^^;」
「そぉねぇ…何時頃からあそこで占いしてるのかな？」
「えっと、一月くらい前からりゅん。」
「ふ〜ん、あれだけ当たるんだから、結構繁盛してるんじゃない？」

　明日香に問われ、えみるは困ったように答える。

「あ…あの、明日香ちゃんが初めてのお客さんだったんだりゅん…」
「えぇ！？な…なんでぇ？」

　思わぬ答えに明日香は驚いた。確かにそうであろう。偶然かもしれないが、占いの結果が７割も当たっていながら自分が最初の客であったのだから。

「いつも学校で占いやっているんだけど、あんまり当たらなくて……えへへへ。」
「ホントにぃ？なんか勿体ない話だなぁ…。よし！アタシが学校で宣伝して上げるよ。何たって明日香ちゃん自身が実績だしね。」
「うわぁ…うれしいりゅん！えみりゅん、頑張る！」

　明日香の言葉に、ガッツポーズを示して喜ぶえみる。煙草屋の常連達もえみるに声をかけることはかけるのだが、いざ占う段階になると、言葉を詰まらせてしまった、えみるの占えない競馬の予想を依頼したりと、あまり芳しくないのである。

　しばらくは、自己紹介がてらお互いの学校のこと等を話していた二人であるが、やがて、えみるが難しい顔で考え込んでしまった。余りにも真剣な顔で考え込んでしまったので、明日香はとまどいながらえみるに声をかけた。

「ど…どうしたの？さっきから考え込んじゃって。」
「よし！決めた！」
「き…決めたって、何を？」

　すこし驚き顔で明日香が尋ねる。

「すみませぇ〜ん、カボチャプリン３つと、キャロットゼリー２つの追加オーダーお願いしまぁす。」
「あ、あなたまだ食べるの？まぁ、売り上げが増えるから嬉しいんだけどさ…」

　明日香は苦笑いしつつも、レピーターにえみるの追加オーダーを打ち込んだ。

【第３話終わり】