学校帰り、とある煙草屋から商店街に向かってより道をしている三人の高校生。そう、先ほどえみるに占ってもらった明日香とその友人達である。

「明日香ぁ、どうだった？」
「ん〜、なんかヘンな占いだった。」
「なにそれ？で、結果は？」
「欲しい物から買えば全部買えるって。ただし…」

　明日香はそこで一旦言葉を止める。

「ただし？」
「足下と目線に注意…だって。」

　明日香の言葉を聞いた友人は、お互いに見合って きょとん としていた。

「な、なに？それ…」
「でしょ？」
「気にしない気にしない。」

　そう言うと、皆笑い出して再び歩き始める。色々世間話をしていると、目的のショッピングプラザ「ショッピングモール」に到着した。数秒ほど悩んだ後、明日香はまっすぐチケット売場に向かった。
　中学の時に一緒に見られなかったあの映画がリバイバルされるのである。今日は、その前売り券の発売日なのであった。チケット売り場に着くと既に列が出来ている。

「あの…すみません、この列って。」
「リバイバル映画の前売り買うのに並んでいるんだよ。」

　明日香は不安になりながらも、一番最後尾に着く。
　一人…一人と売場から去ってゆく。明日香は時々心配そうにぴょんぴょん跳びながら売場の方を見ている。それから間もなく明日香は売場にたどり着けた。

「２枚お願いします。」
「はい。」

（やたっ！明日香ちゃん、ラッキー！）

　店員が明日香にチケットを渡すのと同時に「SOLD OUT」の札のプレートが出された。

（うっ！危なかったぁ…）

　明日香は自分を待つ友人の元へと駆け寄りブイサインを出す。

「いえ〜い！チケット、ゲットォ！」
「明日香、ラッキー！」
「占いが当たったかな？」
「まさかぁ。」

　そうは言いつつも、明日香は、欲しい物の順に売場を移動する。確かに占いの通り、希望する物は全て買えた。だがここで、ふとまた各売場へと戻ってみる事を思いついた。

「ねぇねぇ、ホントに占いが当たったかどうか試してみない？」
「明日香、どういうこと？」
「つまり、今から売場に戻って買った物がなくなっていれば、占いは当たっていると言うことだよね？」
「まぁ…そうなるのかな？」
「よぉし！」

　明日香達は今までの売場へと戻ってみた。驚くことに、明日香が買った直後に売り切れたと言う店が７割もあったのである。ここまで当たると、嬉しいよりも逆に気味が悪くもなる。

「じゃぁ…。足下と目線に注意って？」
「や、やだなぁ…。縁起でもないごと言わないでよ。偶然、ただの偶然だよ。」
「それじゃぁ、どこかでお茶していかない？」

　友人の提案の元、適当な喫茶店に向けて足を運ぶ。

「あ、ちょっと待っててね。」

　そう言って明日香はトイレに駆け込んだ。

　ガラガラッ！

「きゃぁぁっ！」

　今少し前に清掃が終わったばかりらしく、清掃用のバケツがそのまま床に置かれていたのである。それに気がつかず、明日香はそれに躓いてしまった。ところが…である。

　明日香の死角となる場所に清掃の人がいた。明日香の悲鳴を聞いて、明日香の方に振り向いたのはよいのだが、手にモップを持ちながら振り向いたのである。
　明日香が躓きつつも転ばないで前に進むのと、清掃係りの人が振り向くタイミングが見事に一致したらしく、明日香は自分の死角からいきなり出てきたモップの柄のカウンターパンチをモロに額に喰らってしまった。 「きゃい〜ん！！！！いったぁ〜い。」
「あらあらまぁまぁ、ごめんなさい。大丈夫？」

　明日香が洗面台に向かい額を鏡で見ると、モップの柄がぶつかったところが物の見事に赤く腫れている。
　明日香の悲鳴を聞きいて、トイレに駆け込んできた友人達が声をかける。

「明日香！」
「どうしたの？」

　だが、明日香はそれに答えず、鏡に映った自分の額を黙って見ていた。そして間髪をおかず叫び声をあげる。

「あぁ〜！こんなんじゃ、恥ずかしくてバイトにいけないよぉ〜！」
「どれどれ？」

　そんな明日香の言葉に、友人達も明日香の額を覗き込む。

「あぁ〜あ。赤くなっているよ。」
「どれどれ？」
「いたたっ！」
「あ、ゴメン。」

　あの堅いモップの柄のカウンターを出会い頭に喰らったのであるから、赤く腫れるのは仕方のないことであろう。前髪を上げなければ解らないので、とりあえずはこのまま黙って放って置くことにした。
　ちょうどそのフロアにケーキショップがあったので、そこに入ることに決め、各々の品をオーダーした。

「明日香ぁ」
「なぁに？」
「やっぱりさぁ…」
「占いが当たったって言うの？」

　明日香は不機嫌そうに答えた。イスに横に座り、左手は背もたれにかけ、右肘をテーブルに着きながら頬杖を付いていることから、その不機嫌さの様子がありありと解る。

「そ…それはそうとさ、明日香、またバイト変えたんだって？」

　明日香の反応により占いに関することとはタブーと判断した友人は、明日香のバイトに切り替えた。すると、明日香は横座りをやめ、身を乗り出すようにして答えてきた。

「うん！よくぞ聞いてくれました！」
「で、今度の店はどんなところで、制服のどんな点が気に入ったの？」

　明日香の動機の傾向として「ミーハー的な不純さ」が上げられる。例えば、今通っている学校にしても「人気ゲームの制服にそっくり」と言う理由であるし、バイト先を選ぶときの理由も殆ど同じである。

「名前はねぇ…『ぴあきゃろっと』って言うファミレスで、週毎に制服が違うの」
「へぇ…そんな所があるんだ。どう違うの？」
「まずは、ボナサンのような形状のオレンジ色の制服、そして、エプロンを基調とした形状のピンク色の制服、最後に、明日香の一番お気に入りなんだけどぉ…ちょっと変わった形の襟が付いている青色の制服。この３つがあるんだよ。」

　既に運ばれてきたケーキセットを食べながら明日香は嬉しそうに新しいアルバイト先のことを話している。

「変わった店ねぇ…。それで、いつからなの？」
「某月某日から…って、それって今日じゃない！？いっけな〜い、初日から遅刻はシャレになんないよぉ。」

　時計を見ると明日香は急いでケーキを食べ、紅茶を飲み干した。

「じゃぁ、お金はここに置いて行くから。できれば、バイト先にも来よてね。来週だと、いっちゃん気に入っている青色の制服だから、明日香ちゃんの可愛　い姿をお見せできましょう。それじゃ、バイバ〜イ。」

　明日香はそう言いながら、喫茶店を飛び出した。
　明日香のドタバタ騒ぎになれている友人達は舞い散る伝票を慌てることなくキャッチし、しばらくくつろいだ後、喫茶店を後にしたのである。

【第２話終わり】